桜沢如一氏と久司道夫氏、教えの違いは?~前編

実践内容や目指す地点は基本的に同じですが、「マクロビオティックの目的」「開始方法」に違いがあります。

基本は同じ

マクロビオティック創始者である桜沢如一氏と、現在のマクロビオティック界をリードなさっている久司道夫氏。

久司氏はご自分の提唱なさっているマクロビオティックを「クシマクロビオティック」と名づけ、『現在、クシマクロビオティックで世界的におすすめしている食事というのは、(略)石塚左玄、桜沢如一先生など多くの先哲の教えをふまえて私が国際化したものです。』(*1)と、 あくまでもクシマクロビオティックは「久司氏流」のマクロビオティックであることを強調なさっています。

では、桜沢氏のマクロビオティック(食養)と久司氏のクシマクロビオティックでは、どのような違いがあるのでしょうか?

私が各氏の著作を通して読んだところ、実践内容や目指すところは基本的に同じだと感じました。ただ、確かに、少し異なるかな? と思える点も散見されました。

長くなりますので、前後編二回に分けて解説します。

目的の違い~肉体の健康化or精神性の向上

一つ目は、目的の違いです。

桜沢如一氏
マクロビオティックで病気を治せば精神も健康になる!
マクロビオティックで病気を治せば精神も健康になる!

桜沢氏は、『人生に於ける最大の幸福は健康である。』(*2)『まず自由だ! まず独立だ! そのために、まず健康! まず健康!』(*3)という言葉からもわかるように、マクロビオティックをまず「病気を治し、肉体をととのえて健康を得るためのもの」として捉えていると思います。

もちろん、肉体を健康にすれば精神も一緒に健康になり、それが

『スキナことをタンノーするほどやりぬき、スバラシイ、オモシロイ、ユカイナユカイナ一生をおくり、しかもスベテの人々に永く永くよろこばれ、カンシャされる』(*4)

という目的につながっていくのですが、そのためにまず「体(病気)を治す」というところから入っています。

久司道夫氏
マクロビオティック実践の目的は精神性の向上。精神が健康になると肉体も健康になる。
マクロビオティック実践の目的は精神性の向上。精神が健康になると肉体も健康になる。

対して久司氏は、マクロビオティックを実行する目的は『スピリチュアリティの向上にこそある』(*5)とおっしゃっています。肉体が精神を作るのではなく、精神が肉体を作るという考え方です。

『肉体は、食べたものがスピリチュアリティを養い、心を養い、波動化していく、まさにその途中に生まれるもの、あるいは形成されるものといっていいでしょう。』(*6)

「病気を治して精神性の向上をはかる桜沢氏」「精神性を向上させて健全な肉体を作ろうとする久司氏」という感じでしょうか。

開始方法の違い~いきなり変えるor緩やか

二つ目はマクロビオティックの開始方法の違いです。

桜沢氏は食事内容を急激に変化させるのに対し、久司氏は代替食などを用いながらゆるやかに変化させていきます。

桜沢如一氏
最初は第一期食(かなり簡素な食事)で数ヶ月。そこから食事の幅を広げていく。
最初は第一期食(かなり簡素な食事)で数ヶ月。そこから食事の幅を広げていく。

桜沢氏は、それまでその人がどんなにマクロビオティックから離れた食生活を送っていたとしても、まず「第一期食」というかなり簡素な食事内容を一ヶ月から六ヶ月ほど続けることを推奨しています。そこから、少しずつ食事内容の幅を広げていくのです。(ただ、『これが唯一の方法ではない』(*7)ともおっしゃっています。)

「第一期食」とは、たとえば「玄米ご飯+具を油炒めしたみそ汁」のようなものです。

具体的には以下のようなレシピです。

『玄米(水を少くし少々塩を入れて炊く)/みそ汁(ミソは古式、田舎ミソ、米コージを用いないもの。ミはネギ、セリ、ニラ、季節の野菜少々油いためして入れる)一杯』(*8)

一日に一食でも三食でも、お腹がすけば自由に食べて良いことになっています(ただしよく噛む)。

動物性のもの、イモ類、果物、甘いもの、酢、酒などは一切摂らないのが原則となります。

それまでだらけきっていた体と精神にムチをすえるような食事内容にいきなり突き落とすことで、早急にマクロビオティックに慣れさせ、肉体を改善させ、少しでも早く楽な、自由な境地(体が丈夫なゆえに何でも食べられる)へ行けるように仕向けているように感じます。

久司道夫氏
代替食を用いながらゆるやかにマクロビオティック食へ移行。
代替食を用いながらゆるやかにマクロビオティック食へ移行。

対して久司氏は、「移行期」というものを考え、ゆるやかにマクロビオティック食に慣れていく道を提示しています。

たとえば、肉を一切摂らなくても豆や全粒穀物で満足できるのが最終目標としながらも、その移行期にどうしても肉が食べたくなったとき、「置き換えるもの」として魚介類が推奨されています。(*9)

同様に、

●砂糖にはメープルシロップや蜂蜜(最終目標は野菜の甘み)
●乳製品やチーズにはナッツや豆乳(最終目標は味噌、納豆、練り胡麻)
●コーヒーや紅茶にはハーブティーや緑茶(最終目標は番茶)

などの代替食が提案されています。

これは、マクロビオティックに取り組む人の裾野を広げ、よりマクロビオティックを普及させるための良い方法に思えます。

あまりに厳しいと嫌気がさしてマクロビオティックから去っていく人も、少しずつ変えていけばいいんだと思えればリラックスして、長くマクロビオティックとつきあえるでしょう。

次回:後編へ(指示内容、最終的な食事内容、油への態度)

ここまでで前編を終わります。次項『桜沢如一氏と久司道夫氏、教えの違いは?~後編』では、「食事の指示内容、最終的な食事内容、油への態度」の違いについて解説します。

(出典・引用:*1久司道夫著『久司道夫のマクロビオティック入門編』p.10
*2桜沢如一著『永遠の少年』(p.125)
*3、*4、*7、*8桜沢如一著『新食養療法』p.33,107,49,50
*5、*6、久司道夫著『マクロビオティックが幸福をつくる』p.122,123
*9久司道夫著『マクロビオティック健康法』p.194