マクロビオティック実践の果てに健康を大きく崩し、療養生活に入ってから最初の四ヶ月は、三十分と体を起こしていられなかった。
あまりに全身の疲労感が強く、立てない。歩けない。座っていられない。
ただベッドに横になり続ける日々。生産的なことをするのは諦めた。そんな私が心の慰めに買ったのがPSP(携帯型ゲーム機)だった。
ベッドに入り、PSPの電源を入れる。プレイするのは売れ筋のロールプレイングゲーム。PSPの画面は小さいが、目の前で見ればそれなりに臨場感がある。私はゲームの世界観にたちまち没頭した。
それまで退屈だった病床の時間が、ゲームをしていればあっという間に流れた。
体を起こせない私が唯一能動的に楽しめるのがPSPだった。
それまで私は、携帯型ゲーム機の良さをわからずにいた。テレビに接続してプレイする据え置きゲーム機の方が、画面が大きく綺麗だし、迫力もあってよほど楽しいと思っていた。
だが病気になって初めてPSPの潜在能力に気づいた。小さくて持ち歩けるから良いのだ。だからベッドにまで持ち込める。
PSPのおかげで、私は横になっているのが苦痛ではなくなった。
なんという病人の友! PSP万歳!
そして私は、四ヶ月の間に六本のソフトをクリアした。
その後、体力が持ち直してきて、パソコンの前に座っていられる時間が長くなったため、PSPからは自然に卒業できた。
新たに買いたいソフトはあるが、我慢している。私の中で、PSPは病人の友。いざ再び病気になってPSPが必要になったとき、めぼしいソフトをすべてクリアしてしまっていたら、遊べるものがなくて困ってしまう。
だから、病気になるときのために、買わずにとっておいてある。
このことを言うと、母に「また病気になるつもりなの?」と眉をひそめられたが、もちろん好きこのんで病に身を突っ込んでいくつもりはない。
だが、病気とは、どんなに努力していてもいつかかるともわからないもの。
病気になることを想定し、そのときだけに許す楽しみを用意しておくことは、病気に対する不安感や恐怖感を和らげ、人生をもっと前向きに楽しく生きていく態度につながっていくと思う。