桜沢如一氏の提唱するマクロビオティックには、7号食から-3号食までの食事内容の幅がある。
7号食が「穀物100%」で、数字が下がるにつれおかずが増えていき、-3号食に至ると「穀物10%、野菜煮付30%、汁物10%、動物性30%、生野菜果物15%、デザート5%」となる。
-3号食までいくと、一見マクロビオティックとはわからないくらい、我慢のいらない食事内容となっている。野菜も、汁物も、肉・魚もあって、サラダやデザートもついているなんて、まったくもって豊かだ。
マクロビオティックに対し否定的な思いを抱いている人間でも、-3号食はさすがに批判のしようもないのではないか……。
ここまで幅が認められているならば、マクロビオティック実践も楽なものだ。今まで好き放題食べてきて、初めてマクロビオティックをやろうという人ならば、この-3号食から始めればスムーズなのではないか? と思える。
だが、桜沢氏は、「より下の食事ほどむずかしい方法」だと言う。つまり、-3号食はもっとも難しいというわけだ。
「危険のない」のは3号食(穀物60%、野菜煮付30%、汁物10%)以上で、それより下の段階は「旺盛な研究心と冒険心」を持っている場合のみ「ゆっくり、注意深く」試すようにおっしゃっている。
それも、「陰陽無双原理の理解が深まり、健康と幸福が身についてきたら」という条件つきだ。
私には、最初、これがわからなかった。
なぜ、下の段階の食事に対してそんなに慎重になるのか?
「まずは一番下からやってみなさい。慣れれば少しずつ上へ」と言った方が、抵抗なく誰にでもできるのではないか?
危険がないのは3号食以上ということは、それより下は「危険」ということになる。危険とはどういうことだ?
病気になりやすいということか? と、とりあえず結論を出し、私は先に進んだ。だが今になってようやく、桜沢氏のおっしゃっていた「危険」の意味がわかった気がしている。
病気になりやすいというのは確かにあるだろう。動物性のものやデザートを食べながら陰陽のバランスを保つのは難しく、マクロビオティックに慣れた者でも体調を崩すおそれがある。
だがそれ以上に危険なのは、そういうものを食べることで欲望に力を与え、制御がきかなくなってしまうことだ。
動物性のものや砂糖菓子は欲望にとって美味しいエサだ。マクロビオティックを始めて一年未満くらいの時期だと、それまでいくら節制していても、ちょっと欲望にエサを与えただけでたちまち制御が効かなくなってくる。
制御がきかないとは、肉体に付随した欲望が、理性をはたらかせる精神を圧倒してしまうこと。いくら「もうやめよう、食べちゃダメだ」と指令を出しても止まらなくなるのだ。
結果、肉だろうが砂糖だろうがアルコールだろうがスナック菓子だろうが、欲望のおもむくままに摂ってしまい、自己嫌悪に至る。
この欲望の力、豪奢な食べ物への執着心というのが、マクロビオティック実践における苦しみの元であり、万病の元でもある。
だから「危険」と言うのだ。-3号食から始めたのでは、いつまでも欲望に権力を握らせることになる。
それでも、純正食品を用いるなどの心がけで向上はしていくだろうが、執着を断ち切れない苦しみは延々と続く。
危険を最小限にとどめ、苦しみを最短で終わらせるために、桜沢氏は「3号食以上」を勧めているのだろう。
ただ、その助言に従うか逆らうかは自由である。どこからどんな風に入っても、上を目指す限り、必ずマクロビオティックの一番自由で楽しい平野にたどり着くだろう。
だが、かかる時間はだいぶ変わってくると思う。私自身は1号食~2号食(動物性のものが10~20%入っている)から初め、それより上の段階も試し、7号食まで行ってみて、最終的に3号食程度の食事内容で落ち着いた。
これで、マクロビオティックを楽に実践できるようになるまで一年十ヶ月かかった。
-3号食から始めた日には、一体どのくらいかかるのか……。
短期集中的に苦しみが深いが、楽になるのも早いやり方か。
苦しみは浅いが、継続的にその浅い苦しみが続いて、楽になるまで時間がかかるやり方か。
あなたはどちらが好みだろうか?