マクロビオティックが一番得意とするのは病気治しだろう。
創始者の桜沢如一氏もご自身の病気を食物で治してその力を確信し、「病気で死ぬ人をなくしたい」(*1)という思いを元にしてマクロビオティックを広めようとなさった。
当初は、マクロビオティックに行き着く人は病人がほとんどだったのではないか。
いや現在でも体の調子が良くない人がマクロビオティックに興味を持つ場合が断然多いだろうが、インターネットでマクロビオティック実践者の声を拾ってみると、そうではないケースもたまにあることに気づいた。
つまり、「現時点では体に何らかの症状が出ているわけでもなく健康だが、己の食生活があまり良くないであろうことにうすうす勘づいており、それを正すためにマクロビオティックを取り入れている」というパターンだ。
病気を治すためではなく、食生活の改善のために、食の知恵としてマクロビオティックを勉強し、実践してみようとする。
そのこと自体は素晴らしいと思う。
だが、少し心配にもなってしまう。最初から健康な人がマクロビオティックを実践するのは大変だろうと……。
マクロビオティックでは、「避けた方が良い」とされる食品群がある。肉、魚、卵、乳製品、熱帯原産の野菜や果物(ナス、ジャガイモ、トマト、バナナ、マンゴーなど)、白砂糖、添加物、化学調味料、アルコール……。
これらのものを一切「摂ってはいけない」と禁止されているわけではない。だが、「摂らなくても平気でいられる」という状態にもっていくのが望ましくはある。そういう状態になって初めて、「食べたければ何を食べたっていい」というマクロビオティック的な食の自由を得るのだ。
けれど。「摂らなくても平気」。聞いただけではたいしたこともなく思えるが、実際にこの境地を得るのがどんなに大変か!
私は食物アレルギー持ちで、肉、卵、牛乳の除去食で育ってきたから、それらを食べずにいるのは最初から平気だった。だが、最後まで、スナック菓子の誘惑が断ちがたかったこと!
食べちゃダメだとわかっているのに、我慢できなくて、マクロビオティックを始めてからも週に一度は食べていた。
「カップ麺もスナック菓子も、見ざる、言わざる、聞かざる。」でも書いたように、スナック菓子からは2008年の7月になんとか足を洗えたのだが、マクロビオティックを始めてからそこまで一年もかかった。
肉、卵、牛乳というハードルはやすやすとクリアできた私だが、スナック菓子断ちは非常にきつかった。
ましてや、何を食べても何の症状も出ない健康な人が、肉も、卵も、牛乳も? ついでにスナック菓子も白砂糖も「マクロビオティックの教えではそう言われているから」ということだけを頼りにやめるのは、本当に大変だろうと思う。
健康な人はマクロビオティック的にスタート地点が「不利」なのだ。無理にやめなければいけないものが多すぎる。
健康ではない人の方が、マクロビオティックを開始するときには有利と言える。食べれば体の調子が悪くなるものを断つのは比較的容易だからだ。
しかし、たとえ最初は大変でも、せっかくマクロビオティックに興味を持ったならば、持って生まれた健康をますます輝かせるためにもぜひ実践を続けてほしいと思う。
大変な中でマクロビオティックを行うということは、自分の判断力がより磨かれるということ。投げずに続けたあかつきには、最初の不利分を取り戻して、一足飛びに自由な境地へ行ける可能性がある。
健康な人がマクロビオティックを実践するというのは、時代の進展にともなって生まれた新しい流れだと思う。その流れが絶えることなく、脈々と続いていくことを願う。
【関連コラム】
『健康な人が実践するマクロビオティックの限界』
マクロビオティック卒業後に得た新たな見解です。