2009年3月末。北海道の実家を離れ、妹が住んでいる東京のマンションに越してきて以来、私は多忙の妹に代わり家事を一手に引き受けてきた。
買い出し、炊事、洗濯、ゴミ出し。好きではない皿洗いも黙々とこなした。妹が職場で食べるおにぎりを作り、ペットボトルに入れて持って行くお茶を鍋で煮出した。
私がどうにかしないといけないんだ。ずっと、気を張っていた。
だが、6月の終わり頃、妹が急に店を辞めることになった。次のケーキ店に就職するまでという期限付きではあるが、妹は完全な自由人となったのだった。
もう、私がすべての家事をしなくてもいいんだ……。そんな気のゆるみもあったのだろうか。妹が家事に復帰し始めた矢先、私はジュースの飲み過ぎによる夏バテで倒れてしまった。
最初は普通の風邪だと思って玄米ご飯と梅干しくらいで過ごしていたが、途中で「栄養失調だ」と気づき、俄然私は「栄養、栄養」と騒ぎ始めた。
栄養のあるものが食べたい。野菜をたくさん食べたい。だが私は台所に立つことができない。
ここはもう、妹に希望を託すしかない。ベッドから「野菜だくで……」とリクエストを出し、私は妹が料理を作ってくれるのをおとなしく待った。
そうして、妹が私の体のことを考えて作ってくれたのが以下の料理たちである。妹曰く、「家にあるものでマクロビオティック御膳」。
↑玄米ご飯(黒ごまがけ)、大根、にんじん、しめじの炒め物、じゃがいもと玉ねぎの味噌汁
↑玄米ご飯(黒ごまがけ梅干しのせ)、大根、にんじん、じゃがいも、オクラの炒め物、オクラとトマトのサラダ、かぼちゃと長ネギの味噌汁
↑玄米ご飯(黒ごまがけ)、にんじん、玉ねぎ、セロリの炒め物、かぼちゃとパセリのサラダ、わかめと大根の味噌汁
↑じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、かぼちゃの和風カレー(ルウ不使用)、コールスローサラダ
↑玄米ご飯(黒ごまがけ)、豆腐、小松菜、にんじん、もやし、玉ねぎの炒め物、にんじん、大根、かぼちゃの味噌汁
これらの食事をよく噛んで食べ、気が向けばレモン水を飲み、ベッドで横になっているうちに、体に力がどんどん戻ってきた。
油ぎれでギシギシいっていた機械が、油を差されてスムーズに動くようになるような、そんな感覚である。
妹は、様々な野菜を組み合わせ、よく私の体に栄養を補給してくれたと思う。「夏バテにはタンパク質がいいんだって。豆腐料理がいいと書いてあった」と言えば、豆腐の入った野菜炒めを作ってくれたりもした。
オクラ、トマト、じゃがいもなどはマクロビオティックでは陰性とされてはいるが、栄養失調を治すのに特に支障はなく、かえってビタミンCなどが良い風に作用しているように感じられた。夏場で、陰性の野菜を摂るのが理に適っていたせいもあるかもしれない。
あまり陰陽をギチギチに考えすぎず旬の野菜を幅広く食べていれば、体が潤滑に動けるだけの栄養がすみずみまで行き渡るのだなあという学びになった。
さて、妹のおかげで体調は完全に良くなったわけだが、私が台所に立つ必要はまだなさそうだ。
「長い休みが取れたら存分に料理を作りたい」と常日頃から言っていた妹は、自由を得た今、夜になれば「明日何を食べようかな」とそわそわし、朝になればいの一番に台所に飛んでいってごはん作りに精を出している。
妹が次の職場で働き始めるまで、しばらくは妹ごはんの世話になろうと思う。
(しかしこの後すぐ、病み上がりで油断して暴食したせいで、私はまた体調をひどく崩します。続きはこちら→『病気を受け入れる』)