(前編からの続き)
熱はないが、体がとことんだるい。
そんな体調不良が「レモン水」を飲んだことで回復の兆候を見せた。
今回の不調の原因はビタミンC不足にあったのではないか? そう感じるに至って、色々と思い当たる点が浮かび上がってきた。
にんじんりんごジュースに頼りすぎていた
私は、寝込む直前の食生活を思い起こした。にんじんりんごジュースにはまって、朝は必ずコップになみなみと一杯飲んでいたのだ。
そうすると、糖分が高いせいか心も腹もわりと満たされてしまう。にんじんを丸ごと食べた気になって、栄養も十分足りていると思いこんでいた。
だから、それ以外の食事が自然とかなり軽いものになってしまっていた。良くてもざるそば一人前か焼きうどん程度。にんじんりんごジュースの他は惣菜パンしか食べていないなんて日もあった。
「全粒穀物が主食で野菜のおかずが副食」というマクロビオティックに則った食事を一食も摂らない日が増えていた。
ビタミンCも足りなかっただろう。だがそれだけではない。すべてだ。すべての栄養素が足りなくなっていた。栄養失調だったのだ!
この平成の世、豊かな日本においてなぜ栄養失調かという感じだが、にんじんりんごジュースしかまともに飲まなくて、あとはお腹を満たすだけの気休め程度の食事しか摂らないのでは、栄養も偏って当然だ。
小食が良いと信じていた
それに私は、そのくらいの小食が体に良いと信じていたのだ。満腹が過ぎて体調がおかしくなったことが今までに何度もあったから、満腹にはかなりの警戒心があった。
だが空腹は薬だと思っていた。
適切な食事を腹八分に摂った上での空腹は確かに薬だろう。だが、にんじんりんごジュースと惣菜パンだけであとは何も食べない空腹なんて、空腹を通り越して飢餓だったのだ。
私は行きすぎた。食べ過ぎたことは何度もあるが、食べなさすぎたことは今回が初めてだ。
極陰でもなく、極陽でもなく、中庸。中庸ゾーンは広いのに、どうして行きすぎてしまうかなあ。
だが行きすぎる経験があって初めて、中庸を知ることができるのかもしれない……。
栄養を摂る
自分は栄養失調だ。その結論に達して、私はとにかく「栄養を摂る」ということに徹した。
自分で台所に立つ元気はないから、食事は妹頼み。リクエストは「野菜だく」。とにかく色んな種類の野菜をたっぷりと。それだけをお願いした。
妹の作ってくれる食事をありがたくよく噛んで食べ、私は日に日に体力を回復させていった。ビタミンC補給に……と、レモン水もよく飲んだ。
そうやって療養を続けているうちに、体温が戻ってきた。倒れた直後は36℃くらいしかなかったのが、いつもの平熱の36.5℃をマークするようになった。
栄養が足りないことでうまく体内で熱が産出できずに低体温になり、全身の免疫力が下がったことも今回の症状を招いた一因だろうと思えた。
「夏バテ」というキーワード
寝込んでから六日目には、パソコンの前に長く座っていても疲れないくらいの状態になった。私は、自分の病気は一体何だったのかはっきりさせたくて、ネットで心当たりを調べた。
そして行き着いたのが「夏バテ」というキーワードだ。
「夏バテを防ぐ水分補給」という記事の中に「糖分の多い甘い飲み物は、空腹を感じなくさせます。糖は疲労回復に効果がありますが、飲み過ぎは食欲不振におちいってしまい、夏バテを招きかねません。」という文言を見つけたとき、「それだ!」と思った。
にんじんりんごジュースの糖分でお腹がいっぱいになって、他のまともな食事が摂れずに栄養失調となり、ふらふらになって倒れた。折しも季節は夏。クーラーをきかせた室内と、汗だくになる室外と、体温調節が難しく疲労がたまりやすい時期と重なっていた。
私は夏バテだったんだ!
恐ろしや夏バテ……。
「必要最低限」の選択を誤った
栄養失調による夏バテを経験して初めて、私は「バランス良く、たくさんの種類の食物を摂る」ことの重要さを知った。
私は今まで、どちらかというと、「種々の食物で構成された豊かな食事」より、7号食に代表されるような「必要最低限のものに限りなく絞り込まれた食事」の方が良いと思っていた。
足りない栄養素は体内で合成されるという論を信じてもいたし、余計なものを削ぎ落とした食事の醸し出す静謐で厳かな雰囲気に憧れてもいた。
確かに、玄米ご飯を主食とし、季節の野菜を少量おかずにするような内容であれば、質素な食事でも健康に生きていけるのだろう。
だが私は、にんじんりんごジュースを主食とし、惣菜パンやざるそばをおかずにするような食事を続けてしまった。
「必要最低限」の選択を誤った。
絞り込まれた食事は、選択が正しければこそその効果を発揮するもの。間違ったものを少量しか食べない生活が続けば体がどのようになるのか……。
その恐ろしさを、私は身をもって知った!
熱はなく、むしろ体温は低いくらい。咳も鼻水も出ないのに、体だけが重症の風邪のときのようにどこまでも重たく、だるい。
風邪であれば、体がウィルスと闘ってくれているなという印象があってまだ頑張れるのだが、栄養失調の場合は全身の細胞がぐったりしていて、もうダメだというような絶望感にさいなまれる。
こんな思いをするのはもうごめんだ!
バランス良く、たくさんの種類を
私は、食事内容の指針を、自分の中であらためてはっきりさせることにした。
・全粒穀物が主食のしっかりした食事を、可能であれば一日に一度は摂る。
・そのときのおかずは、野菜や海藻、豆類などバラエティーに富んだものをたっぷり。
・「全粒穀物+おかず」の食事が摂れなかった日でも、野菜だけは、何らかの形である程度の量を食べるようにする。
・野菜ジュースは、ビタミンやミネラルは豊富だけれど食事代わりにはしない。あくまでもおやつ。
満腹=栄養過剰から来る病気も恐ろしく、そちらの方が問題になることが多いだろうが、飢餓=栄養の欠乏も健康を害する。
今までは過剰になることを警戒してばかりいたが、これからは欠乏への警戒も怠らないことにしよう。
それにしても、食べ過ぎたり、食べなさすぎたり、私もいつまでも失敗を繰り返しているが、小さな失敗を重ねてそのたびに軌道修正することで道を大きくは誤らずに済んでいるのだと、体調が回復した今となっては逆に今回の失敗に感謝したいくらいである。(具合の悪いさなかは泣き言ばかりであったが……)