『白砂糖が甘い、カレーがくどい』で書いたように、マクロビオティック開始四ヶ月目で私は好物だったカレーが体に合わなくなった。
胃にもたれるのだ。恐らく油脂の量が多いせいだと思っていた。
カレーを食べたいという欲求がなくなり、それまで月に1~2度は食べていたのを一切食べなくなった。
それから一年八ヶ月。妹と二人暮らしをすることになった私は、小さな冷蔵庫内をすっきりさせようと食材の整理に乗り出した。その中に使いかけのカレールウがあった。
カレーかあ……。もう二年近く食べていない。パッケージを見ているとなんとなく食べたくなり、私はそのルウを使ってカレーを作ることにした。
カレーを食べたくなったということが自分自身でも不思議だった。あれだけ、「もう食べられない」と思っていたのに……。
玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、生姜、にんにくというシンプルな具で作ったカレーは、とても美味しかった。
胃もたれするかも……という恐怖も感じず、実際、胃もたれを起こすこともなかった。
あれ? カレーが平気になってる。カレー、美味しい!
また食べたくなって、近所の自然食品店で新たにルウを買った。一鍋作ったら、あっという間にカラになった。胃の調子も落ちない。
短期間のうちに二度もカレーを食べたのに、胃もたれもせずピンピンしている。これは一体どういうことだ?
三度目のカレーを作ろうと、使う野菜をスーパーでカゴに入れながら私は考えた。
カレーは香辛料と油脂が多く、陰性が強い。暑い季節に合った食べ物だから、気温の上昇とともにカレーへの食欲が増すのは自然なことだろう。
だが私は、暑かろうが何だろうがカレーを食べると胃もたれするようになっていたはずだったのだ。だから食べる気すら起きずに一年八ヶ月もご無沙汰だった。なのになぜ今急に食べる気になって、食べても大丈夫になったのか。
体内のことだから真相は定かではないが、もしかしたら、陰陽のバランスを正しく保つために体が送ってくる「これを摂取したい」というサインを正しく受け取って、適切なタイミングで食べられるようになったのかもしれない。
マクロビオティックを始めたばかりの頃は、まだ頭で考えて食べていたから、体が「今はいらない」と言っているものでも無視して食べたりしていたのだろう。
体の欲求に添わないものを摂取した結果、胃もたれなどの不調を招いていたのかもしれない。
だが今は、体の声にうまく従えるようになって、心身にとって一番無理のない食べ物や食べ方を選べるようになったのかもしれない。
「カレーを食べると胃もたれする」のではなく、「カレーを食べなくても良いと体が言っているのに無視して食べると胃もたれする」というのが本当のところだったのではないか。
「今はカレーを食べたい、食べても大丈夫だ」と体が言うときに食べられればきっと、胃もたれを起こすことはなかったのだろう。
私は、この気づきを得られたことが本当に嬉しい。
カレーを食べられない体になってしまったのではなかったということが嬉しい。
カレーは胃もたれするからもう食べられないと思ったとき、内心、「それって退化じゃないか?」と思っていた。
食べようと思えば何でも食べられる丈夫な鉄の体を作るのがマクロビオティックのはずなのに、それまで平気だったものが食べられなくなるなんて、なんだか理想とは逆の方向へ行っている気がする。
食べたくない、ではなく、食べられないだなんて!
しかも、それが食品添加物などのどう考えても体に良くないものというならまだしも、カレーなんてものは油脂が多いくらいで、たいした害があるようには思えない。自然食品店で買ったルウならなおさら、油脂も植物性だし、添加物も入っていないのに。
食べる必要を感じないから食べないというのは自由だけれど、食べられないというのはイヤだなあ……。そう感じていた。
だから、カレーを食べても平気なタイミングというものがあるとわかったことが嬉しい!
マクロビオティックを実践すると、体のセンサーが敏感になって、必要でないものを食べたときにそれまでより大きな拒絶反応が出るようになる。
その拒絶反応に驚いて、「私はこの食品を食べられなくなってしまったのだ!」と決めつけるのはきっと早計なのだ。
「食べたくない、食べないでもいられる」と感じたときは食べない……というルールを守ってさえいれば大丈夫なのだ。
体が、「今、OKだよ。カレーが食べたいな」と小さな声でつぶやいたのを聞き逃さず、そこで食べることができれば、カレーだって胃もたれしないのだ!
この理論でいくと、私が「もう体に合わなくなったなあ」と感じているものでも、タイミングさえ間違えなければ大丈夫ということになる。
その最たる物はコーヒー。マクロビオティックを始めてから、コーヒーを飲むと全身の血管が縮まるような苦しい感じがするようになってしまった。
私は、アイスコーヒーにバニラアイスクリームを浮かべた「コーヒーフロート」がとても好きだった! けれどコーヒーが飲めないのではコーヒーフロートも飲めないのだなあと寂しく思っていた。
しかし私はきっとコーヒーが飲めなくなったのではない。体がGOサインを出したときなら、飲んでも具合が悪くはならないはずだ。
今はまだ、そのタイミングは来ない。だが今後も体の声を聞き続け、「コーヒーが飲みたいな」なんてときが来たら、恐れず試してみようと思う。
いつになるかはわからないが、結果が出れば、追ってこのサイトでご報告したい。
追記:コーヒーは飲めるようになった
2018年追記:上記コラムを書いてから九年が経過した。
現在は、コーヒーを飲んでも特に体調の崩れは感じなくなった。
ただ、昔に比べ、「コーヒーを飲みたい」と思うことはめっきり減った。コーヒーが合うような食べ物(洋菓子)を滅多に食べなくなったせいもあると思う。
コーヒーフロートは、飲むとしたら真夏の一番暑い日。コーヒー関係なく、冷たいものを飲むと胃の調子が下がるようになったので、今は基本的に一年中「冷たい飲み物」は避けている。