季節が少しずつ春から夏へ移り変わるさなか、冷たいそばを食べたい衝動に駆られた。
たいていの材料は冷蔵庫にあったが、肝心のわさびがない。同居している妹に言うと、「からしを入れれば?」なんて無茶を言う。
そんなわけにもいかないから、わさびを買いに出かけることにした。
翌朝、玄関のドアを開けて空を仰ぐと冴え冴えとした晴天。空気も冷たく心地よい。私は急遽、予定を「わさびの買い出し」から「神社参拝とわさびの買い出し」に変更した。
晴れた日は神社に限る!
バスに乗って向かったのは杉並区の井草八幡宮。行ったことのない土地をバスで走るのは、探検しているようで胸が躍る。
桃井第四小学校前で下車し、紅白帽をかぶった児童たちがグラウンドで運動会の練習らしきことをしているのをほほえましく眺めながら歩く道すがら、塀の向こうにこんもりと木々が茂っているのが目に入った。鳥居が見えなくてもわかる。これが鎮守の森。この中に神社が……。
もう少し行くと、車がビュンビュン通る青梅街道に出る。その、青梅街道沿いに井草八幡宮の入り口はある。見て驚いた。青梅街道は車であふれ、いかにも近代的・工業的なのに、その青梅街道にぴったり寄り添ってたたずむ井草八幡宮は、時代も近代化も忘れたような清涼感を漂わせているのだ。
なんたるチグハグ感。けれどこのチグハグ感こそ東京の魅力よな……。と思いながら参道に入る。
きらめく木漏れ日が降り注ぐ。杉並区の指定保護樹林に指定されているだけあって、原始そのものといったおもむきである。
原始の森の奥に楼門がそびえる。
楼門を抜けると急に視界が開け、拝殿に至る。
手水を使って参拝を済ませた私は、末社の一つ一つにも手を合わせた。こんなに素晴らしい日和に、思いがけないほど美しい神社に参拝させていただけたことがとてもありがたかった!
しばらく境内を散策し、私は弾むように神社をあとにした。井草八幡宮、気に入った。
すがすがしい気分のままバスに乗り、自然食品店に行く。わさびをカゴに入れると、近くに陳列してあった有機の生そばが目に留まった。乾そばはうちにあるけれど、生そばっていうのもいいなあ……。せっかくここまで来たのだから……と、私はその生そばも買うことにした。
↑有機JAS有機奥出雲石臼挽き生蕎麦。二食入り397円。
帰宅後、そば祭りである。
麺つゆに大根おろしをたっぷり、かいわれ大根、わさび、焼き海苔を入れて。「そば湯も美味しい」とのことだったので、そば湯も添えた。
いただきまーすと食べ始めて目を見張る。おお、乾そばとはまた違ったツヤツヤ感とコシ! さすが奥出雲のそばだけあって、数年前に出雲で食べた出雲そばを彷彿とさせる。
まるでそば屋に行ったようだ。とろみのあるそば湯をすすりながら、あっという間にひと山たいらげてしまった。
素敵な神社に美味しいそば。なんとも贅沢な一日であった!